山口大学工学部循環環境工学科

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ナノ多孔質な膜の開発

熊切 泉

   地球温暖化対策の国際的な枠組みとしてパリ協定が決まり、国ごとに温暖化効果ガス(例えば、二酸化炭素)の削減目標が掲げられている。日本の二酸化炭素排出量の約1/3は製造業から排出されており、内13%程度が化学産業に由来する。化学産業で欠かせない分離工程を省エネルギー化できれば、二酸化炭素排出量削減に大きく貢献できる。
   近年、広く用いられている蒸留法の一部を膜分離で置き換えることで、極めて大きな省エネ効果が得られる可能性が示された。これを受けて、新規な蒸留・膜ハイブリッドプロセスを実現するために、様々な膜の開発が進んでいる。
   例えば、ゼオライトという無機結晶には、ガス分子と同じ程度の大きさの孔が規則正しく開いている。このゼオライト結晶を膜にすれば、ゼオライトの孔の大きさで分子をふるい分けることができるかもしれない(図1)。小さな水素分子と大きな有機キャリア(例えばトルエン)の分離(SIPエネルギーキャリアプロジェクト)などを通して、ナノ多孔質膜を検討してきた。また、膜の製造コストの低減を目指し、スペインのハイメ1世大学と共同研究を行っている。

膜と他の技術との組み合わせ

熊切 泉

   膜と他の技術を組み合わせることで、新しいプロセスを創造できる。例えば、膜による分離と、触媒を用いた反応を同一容器内で行うと、相乗効果が得られる場合がある。熱力学的平衡制限のある反応の場合では、ビーカー内の反応では平衡組成以上に反応は進行しない。一方、触媒膜反応器を用いて、反応で生成した物質をその場から除けば、平衡を超えた転化率が得られる。スペインのサラゴサ大学と、二酸化炭素からメタノールを作る反応への膜反応器の適用に関する共同研究を行っている。
   また、発酵によるバイオエタノールや酸の生産と、膜分離を組み合わせれば、小型で簡易なバイオリファイナリープロセスが実現できる可能性がある(図2)。農村に小型・簡易な装置を設置して、農業廃棄物(稲わらなど)からバイオ燃料や化成品原料を製造できるようになるかもしれない。農業廃棄物から有用な成分をその場で作り、残渣は飼料などとして利用する。この分野は、農学部や東南アジアの大学との共同研究として行っている。

触媒膜コンタクターの開発

熊切 泉

   私たちは、様々な化学製品を使っている。これら化学製品を作る工場廃水には、様々な化合物が含まれており、従来の水処理技術では十分に対応できなくなってきている。例えば、難分解性で、微量でも有害な有機物を、安価に処理する方法は限られており、新しい処理技術が必要とされている。
   セラミックス多孔質膜の表面近傍にナノサイズの触媒を固定した触媒膜(図3)を、気液接触コンタクターとして用いると、低温でも高い有害な溶存有機物の酸化分解速度が得られる。例えば、ギ酸を含む工場排水処理で、他の方法と比較しても経済的に競争力がある性能が得られた。本分野では、日本・ヨーロッパ共同研究プロジェクト(CONCERT-JAPAN)が始まる予定である。

研究者の紹介
氏 名(フリガナ) 熊切 泉(クマキリ イズミ)
所 属 大学院創成科学研究科
学 位 Ph.D. (Eng.)
研究室ホームページ 熊切研究室
研究キーワード 分離膜、膜反応器、水処理
熊切 泉
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